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佐世保簡易裁判所 昭和60年(ハ)292号 判決 1985年8月28日

原告

村吉梅雄

右訴訟代理人

山元昭則

高尾實

被告

大場興産株式会社

右代表者

大場聖

右訴訟代理人

塩津賢三

主文

被告は原告に対し、金一八万一、二〇九円およびこれに対する昭和六〇年五月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

第一  申立

原告の請求の趣旨は主文同旨。

被告は、請求棄却申立。

第二  原告の請求原因

一  原告は、昭和五六年一〇月一四日被告から金七万〇、〇〇〇円を借受けたのをはじめ、別表「借入額」欄(1)乃至(6)記載のとおり、いずれも利息は元金一万〇、〇〇〇円につき一日一七円の約定で借受けた(以下、右(1)乃至(6)の貸借全体をさして「本件各借入れ」または「本件各貸借」と、そのうちの個々の貸借をさして「別表」の次に各「(1)乃至(6)」と表示する)。

これに対して、昭和六〇年四月一日まで別表「支払額」欄記載のとおり債務の弁済として各支払をした。

二  原告の右の支払を利息制限法所定の制限内の利率(昭和五六年一〇月一四日から翌五七年二月二五日まで年二割、翌二六日以降は年一割八分)に引直して計算すると、各支払日毎の利息、元本充当額、残元本額は、それぞれ別表の右各欄記載のとおりである。

右によると、原告が昭和五九年七月四日に支払つた四、〇〇〇円のうち五七一円と、それ以降に支払つた合計一八万一、二〇九円については、債務の存在しない弁済であるから、これに訴状送達の翌日である昭和六〇年五月一二日から年五分の割合による損害金を付してその返還を求める。

三  原告が、本件について利息制限法一条所定の利率によつた理由はつぎのとおりである。

1  本件の各借用証書には、印刷された不動文字による遅延損害金約定の記載があるが、これには被告ら業者の貸付の実情からみて、契約としての拘束力を認めるべきではなく、また、原告も支払予定日の記載が絶対的なものとは考えておらず、この点についての合意は不成立である。

2  仮りに、右の約定が成立していたとしても、(イ)、利息制限法一条所定の制限を超える利息の約定は無効であるから、この無効な約定利息の支払をしなかつたことを理由として期限の利益を失う旨の特約も無効であり、(ロ)、被告は、原告が利息支払日における利息の支払を怠つたとしても、それだけで直ちに期限の利益を失わせる心算はなく、また、それによつて直ちに元金回収の措置に出る予定もなく、単に利息制限法四条の適用を受ける目的のみでなされた特約であるから、同法の脱法行為として無効である。

3  被告は、原告が支払予定日とされた三一日以内に支払をしなかつた場合でも、常に原告に期限の利益を付与して、それ以後も利息を受け取り続けるなどして損害金請求権を放棄したか、損害金約定を黙示によつて合意抹消した。

右1、2、3の何れによつても、本件貸借については利息制限法四条適用の余地はないから、同法一条によつて、別表(1)の借入日からこの借入金七万〇、〇〇〇円にその後新たに借入れた別表(3)の五万〇、〇〇〇円を合せて一三万五、四三〇円の準消費貸借をした前日の昭和五七年二月二五日までは年二割、それ以降は年一割八分である。

第三  請求原因に対する被告の答弁

請求原因一は総て認める。

同二、三は総て争う。

まず、本件の各貸借は、それぞれ別個独立の契約に基づくものであるから、各貸付金毎に利息制限法所定の利息および損害金の制限率に従つて各別に計算し、超過分の元本充当も各別になすべきである。なお、本件の各貸付契約に当つては、経過日数に応じた約定利息を三一日以内に支払うこと、この支払を怠ると催告その他の手続を要せず当然に期限の利益を失う旨の約定がある。この約定によると別表(1)、(2)の貸付金については昭和五七年一月二六日、同(3)、(4)については同年六月二六日、同(5)については同年九月二七日、同(6)については昭和五八年七月二六日に、いずれも期限の利益を喪失しているので、右各期日の翌日からは利息制限法四条所定の率によるべきである。

第四  証拠

民訴法三五九条により省略。

理由

一原告が被告から、本件各借入れをなし、別表「支払額」欄記載のとおり支払つたことは当事者間に争いがない。

被告は、別表(2)以降の各貸付に当つては、その都度従前の貸金残元本と新たな貸付額とを合計した借用証を差入れさせ、原告にはその差額を交付し、同時に旧借用証を返還してきたことは、被告自ら陳述するところである。これに成立に争いのない甲一乃至六号証を加えると、別表(2)乃至(6)の各貸借が別個独立のものとは認め得ず、従前の債務額に新たに生じた債務額を合せた一個の新たな消費貸借といわなければならないから、利息・損害金の計算・元本充当・利息制限法の適用利率についても、各貸付毎に別個独立になすことはできない。

二原告が、約定された三一日以内に経過利息を支払わなかつたことがあることは当事者間に争いがない。そこで、これによつて原告が期限の利益を喪失したかどうかを検討する。

<証拠>によると、つぎの事実が認められる。

各借用書には「利息は元金一万円につき一日一七円」、「三一日以内に経過日数分を支払います」、「三一日以内に利息を支払わなかつたときは遅延損害金として元金一万円につき一日一九円の割合で支払います」、「この支払を怠り『貴社がその必要ありと認めたとき』は、催告その他の手続を要せず当然に期限の利益を失う」云々の各記載がある。

右によると、被告において「その必要あり」と認めたときは催告その他の手続をとることなく期限の利益を喪失させることができる趣旨と解すべきところ、被告は、原告が三一日以内に支払うべき利息の支払を怠つた後も、依然として元本の利用を継続させており、その返済を求めた形跡も認められない。そればかりでなく、より高率な損害金の約定があつたのにそれによることなく約定利息額を受領し続け、領収書にも「御利息」と表示していること、更に、それから三一日目を「次回支払期限」と指定した「残高確認書」を交付し、場合によつては、いわゆる釣銭を「預り金」名義で預つたうえで次回の支払に充当していることがそれぞれ認められる。

これらの各事実は、期限の利益を喪失し、元本に損害金を付して直ちに返済すべき義務を生じた債務者に対しては考えられないことを云わなければならず、一方原告は、時に一、二日遅れることはあつても借受以来ずつと約定利息を払い続けていたことと考え合せると、被告は、原告の場合には期限の利益を喪失させ、直ちにその返済を求める「その必要あり」とまでは、いまだ認めるには至らず、その措置には出なかつたものと解するほかはなく、原告が期限の利益を失つたとは認められない。

もつとも、甲六号証の借用書には、右の「貴社において必要ありと認めたとき」云々の文言はないが、この別表(6)の貸借についても、右認定事実のとおりであつて、被告が期限の利益を喪失させる措置に出たとは認め得ない。

三以上のとおりであるから、原告の請求原因三3の主張は理由があるので、同1、2について判断するまでもなく、本件については利息制限法四条の適用はないと解するので、原告の各弁済額を同法一条の制限に従つてその超過額を元本に充当すると別表のとおり(円以下の端数は四捨五入計算)であることは計数上明らかである。これによると、原告が昭和五九年七月四日に支払つた四、〇〇〇円のうち五七一円と、それ以降の支払はいずれも存在しない債務についてなされた弁済であるから、原告の本訴請求は理由がある。

(裁判官福田満男)

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